地域が連携して行なう看護とは?

vol6_001今回の対談は、武田早苗様(せんぽ東京高輪病院・看護部長)と、阿部智子様(訪問看護ステーション「けせら」所長、東京訪問看護ステーション協議会・副会長)をお招きし、「地域が連携して行なう看護とは?~地域医療の再生を目指して~」について対談していただきました。

三澤:

本日は“地域医療再生”の観点から、「地域が連携して行なう看護とは?」というテーマで、お話を伺います。
最初に、武田さん、阿部さん、それぞれの立場・役割から、現状についてお話いただけますでしょうか?

武田:

私たちの病院では、現在、MSW(Medical Social Worker〈医療ソーシャルワーカー〉)が施設への紹介を、退院調整看護師が在宅への調整を、という連携をとって行なっています。
長期入院の理由として、家族の要望である場合もあり、患者本人にとって、適切な療養場所を提供しているとは言い難い状況です。
ですからご家族には、在宅で受けられるケアや患者自身のQOL(クオリティオブライフ:自分らしく充実した人生を送ること)にとって病院生活では限界があることを説明し、患者本人に合った療養場所を提供することが必要と感じています。

阿部:

私たちの訪問看護ステーションでは、80~90歳の難病の方が大半でターミナルケア(末期がんなど終末期と診断された患者に対する医療・看護・介護をすること)が中心です。
患者側には総合病院志向がありますが、容態の変化に対応するためには、連絡の取りやすい地域のかかりつけ医の必要性を説明して欲しいと思います。
退院した患者さんを受け入れる側にとって、“看護連携”は大切です。医師からのカルテだけでは不十分で、看護サマリーは医療情報として重要です。

武田:

現在の看護サマリーについて、ご意見を伺いたいと思っています。

阿部:

基本的に今の看護サマリーで十分役立っています。一人の患者さんが入院と在宅を繰り返す可能性が高いので、看護サマリーのやり取りはますます重要になると思います。
私達の状況報告(在宅の状態)についてですが、遅れてでもあったほうがよいものでしょうか? 夜間緊急入院のケースなどタイムリーに対応できない場合もあり、遅れてでも必要なのかどうかと思っています。
また、電子カルテになっている今、手書きの報告書の運用について疑問に思うこともあります。

武田:

再入院の場合は次の対応への重要な情報となりますから、業務の中にどのように取り入れるか、運用方法はこれからの課題ですね。

阿部:

平成12年の介護保険法によって、訪問看護ステーションが介護保険でも医療保険でも利用できるようになり、地域の中で医療と福祉の連携、という意味でも大きな役割を担うようになってきました。
そうした流れの中で、ケアマネージャーを医療職でという声もありますが、現状は訪問看護師がケアアネージャーになるケースは少なく、福祉職が7~8割です。
条件面でも福祉職が担っていくしかないのが現状です。そのため、医療がわからないケアマネージャーの立てたプランに沿って、訪問看護をすることに課題を感じています。

武田:

病棟の退院カンファレンスをとっても、ケアマネージャーのレベルに差があることを感じています。ケアマネージャーを選べるようになるといいでしょうし、そうなればこれから成熟してくるのではないでしょうか。

阿部智子:

vol6_002厚生労働省は以前から24時間訪問看護を、ということで訪問看護ステーションの大型化を望んでいます。安心して在宅で看護できるようにするために、“ネットワーク”を組む必要があります。
しかし、訪問看護ステーションごとに体制や理念の違いがあります。24時間対応でないステーションもあり、ネットワークを組む難しさも感じています。
やはり課題は人材です。『人材育成』は欠かせません。特にステーション管理者によってスタッフの定着率が左右されますので、「管理者研修」に力を入れて現状を変えていかなくてはならないと思っています。

武田:

厚生労働省は病院にも同じことを望んでいます。病院も大きいところはより大型化をし、小さい診療所などとネットワークを組むというものです。
努力だけでは限界があります。『システム化・効率化』していかなくては、地域医療の再生は難しいと思っています。

三澤:

必ずしも大型化がいいとは思いませんが、少子化が進み担い手がいないのが現状ですから、“地域で完結する医療の重要性”はますます高まっていくことでしょう。
世界最速で少子化が進み、国の財源がなくなってきている状況において、日本の医療制度のよい部分を活かしつつ地域完結型医療にシフトしていくためには、どうあるべきでしょうか?

阿部:

医療の発達は目覚ましいものがあります。
最新技術を目のあたりにすると、“高度医療化”がますます人から死を遠ざけていると感じます。本人が望めば、ある程度自然であってもいいのではないかと思う部分もあります。

武田:

私も同じように考えています。たとえば97歳の方にペースメーカーを施すような場合です。本人の意識も薄れていく中で「延命措置とは?」。
ただ、ご家族にとってたった一人のお母様だとしたら、「何とかして欲しい」というご家族を責めることはできません。医療者である一方で、一人の人間として悲しみを伴います。
医療の技術はこれからも進化していくことでしょう。その時に、人間の死をどう捉えたらいいのか、人は生まれた時から死へ向かって一歩一歩進んで行くと言いますが、「死生観」というものを成熟させることが、これからの医療に必要ではないかと思っています。 今後は、健康教育や死生観を中学生、高校生の教育の中に取り入れていく必要があるのかもしれません。

阿部:

医療者であり、生命を助けなくてはならない立場であるけれども、一人の人間でもあって、自分だったらどうなのかと考えることもあります。
ただ、家族が望むならいくつでも、どんな状況でも尊重します。けれども、延命は苦しみを先に延ばすだけ、という状況を理解してもらうことは大切です。説明した上で患者家族が考えて選択すれば納得できると思います。

武田:

今は、家族に見守られる中で看取られる風景が少なくなりました。医療が進んでしまい、死が身近ではなくなっているように感じます。看護師が患者やご家族に向き合い、話し合う時間があれば、家族も自然の衰えを受け入れ、納得して見送ることが出来るかもしれません。
ただし、現在の勤務人員の状況で、看護師にそこまで求めるのは酷かもしれません。昼夜と働く身体的な大変さ、命に携わる精神的な大変さを認めて、体制を考えていく必要があると思います。

阿部:

これからの医療は、一人ひとりが病気になっても「どう向き会っていくか? どのような治療方針を望むか? どのような最期を迎えたいか?」を自分で選択できる社会へとさらに進むことでしょう。
そのために、医療機関は“患者が選択できるだけの情報を伝えること”が必要です。医療機関には、救急や急性期医療を担う病院から、療養型の慢性疾患を担う病院、また、病院と在宅の間として、老人保健施設、そして住宅などさまざまな施設があります。
各施設が、役割に応じて対応していることは事実ですが、私たちはその時々で、本人が望んでいる形につなげられるように、それぞれの立場から関わることが大切です。
医療情報としてのカルテの他に、患者を一緒に支えるネットワークとなり、本人の生き方の希望に沿った支援を、各施設で共通にできることが求められるのではないでしょうか。

武田早苗:

vol6_003看護師の97%が女性で、「結婚・出産・介護」という節目や「職場の人間関係」で辞めている場合が多いのが現状です。
また、一通り看護業務ができるようになると、それまでの達成感ほどには自身の成長を感じられず、目標を見失い辞める場合もあります。
一人の人間の一生に関わることで、もっと臨床を学ぶ重要性を知ってもらいたいのです。
ひとつには、高齢者とふれあう機会を持たずに看護師になった若い世代に、高齢者と向き合うことから始めなくてはと思っています。
4年前、東京看護協会研修に訪問看護センターが門戸を開いたことから、看護師が訪問看護ステーションで1日体験をできるようになりました。
一生続けられる仕事として、『看護の魅力や意識づけ』が必要で、そうすれば潜在看護師も減り、在宅に回る看護師が増えるのではと思います。

阿部:

人に関わる仕事をする以上、“人間が好き”であって欲しいと思います。その人の生活から病気が見えてくることもあります。
痛み止めも大事だけれども温かな手も必要、という看護にこだわっていきたい。ナイチンゲールが原点ですね。

武田:

治るはずのない背中をなでて眠りにつく患者。さすって差し上げるとよくなった気がする、とおっしゃる患者もいます。『手の温かさ、ぬくもり』には“力”があります。
看護師の仕事は、「ありがとう」と言われる喜びが入り口。病院としては看護師が一人の患者を全人的(身体的・心理的・社会的などに偏らずあらゆる角度から判断すること)にみることができる取り組みをしていきたいと思っています。
患者を大事にすると同時に、看護の喜びを持つしっかりとした職業観を育成できるよう、働く看護師の“心のメンテナンス”も含め一人ひとりを大事にしていきたいと思います。

三澤:

もともと看護師になろうと思った方には看護が好きで、何らかの想いがあったはずです。それが疲弊してしまい、免許をタンスにしまってしまう方が多くいます。
看護にも大病院、中小病院、在宅などさまざまな働き方がある、ということを知れば状況も変わっていくのだと思います。

武田:

看護連携によって信頼関係を築くことで、「訪問看護をしたい」という看護師には、信頼できる訪問看護ステーションを紹介したいと思っています。

阿部:

場所が違うというだけなのですから、医療者同士が情報交換を密にしていくことで解決できる部分が見えてくるのではないでしょうか。

三澤万里子:

vol6_0042009年5月に発足した「新・看護管理者マネジメント塾」のように、顔の見える機会があります。実情がわかれば、看護連携をする上でお互いに理解できることもたくさんあると思います。
また、医療業界以外の講師を招くことで、医療だけでの解決が難しいことでも、他の業界から得られるヒントや気づきがあるでしょう。

武田:

『異業種との交流によって看護管理者の意識が変わる』というのは本当でした。違う業界からみた看護師の役割について考えるきっかけにもなりました。

三澤:

また他の業界の方にも看護師の働き方や実情を知っていただきたいと思っています。
看護職は女性が大半で、人間関係で辞めるというようなマネジメントの難しさもあるかと思います。
そこで女性にも感情論ではなく、ロジック(論理)で考えられる感覚も持ち合わせて欲しいと思い、「新・看護管理者マネジメント塾」では男性の企業経営者に講師をお願いしています。
このような機会が看護管理者の地位向上に貢献することで、個々の問題もつながり、解決の糸口をたどることができると信じています。
誰もが直面する医療・介護の問題を、もっともっと生活者である私たちは知るべきですし、医療福祉業界だけの問題ではなく、社会全体で考えていかなくてはならないと改めて思いました。
ありがとうございました。

■武田早苗 プロフィール
(財)船員保険会 せんぽ東京高輪病院看護部長
平成21年度東京都看護管理者連絡会議・会長

昭和51年に看護師として国立病院の精神科に入職。当時、精神科界のけん引者であった医師と個性的な看護師集団の中で学び、科学的看護論の薄井担子先生の月1回・2年間の直接指導を受ける。
昭和59年より転勤先の茨城、東京、埼玉の国立病院にて看護師長・副看護部長などを歴任。平成18年より現職。

■阿部智子 プロフィール
(有)けせら取締役 訪問看護ステーションけせら所長
東京訪問看護ステーション協議会・副会長

出産を機に看護師として勤務していた総合病院を退職。その後、日本大学経済学部通信課程を卒業。平成7年、訪問看護師として在宅療養に携わる。
平成12年、訪問看護師として自分の想いを地域に届ける看護を展開したいと、(有)けせらを設立。同時に訪問看護ステーション、居宅介護支援事業所を開業。その後、ヘルパーステーションも併設し、看護と介護が連携できるケアプランを地域に届けている。

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