最高のチーム、組織を目指して!

医療事務について今回は、2部リーグ降格から1部リーグへの復帰、そして復帰1年目で優勝し、昨年末のクラブチーム世界一を決める大会で堂々の4位に。今、最も勢いのあるサッカークラブといえる「柏レイソル」で、広報宣伝部部長としてクラブの躍進を支える河原さんに、「最高のチーム、組織を目指して!」についてお話を伺いました。

三澤:

今日はよろしくお願いします。今回対談させていただく河原さんは、じつは学生時代からの知り合いなんですよね。まさかこんな形で対談することになるとは思ってもみませんでした。
でも、チームの広報部として、選手やサポーターの橋渡し役を担っている河原さんのお仕事は、医師と患者の橋渡し役となる医療事務に通じる点がたくさんあるんじゃないかって思ったんです。

河原:

今回、昔からの友人である三澤さんからお話をいただいた時、サッカーのクラブチームで働く自分の仕事と医療と、いったいどんな共通点があるんだろうってすごく悩みました(笑)。
でも、確かに似ているところもあるかもしれないと思ったのです。
というのも、サッカーのクラブチームは、優れた選手や名監督を連れてくれば必ず勝てるわけではなくて、選手や監督と、僕たちのような運営スタッフ(フロント)の連携が取れていないと必ず歯車が狂ってしまうことがあるからです。

三澤:

サッカーに限らず、選手とフロントがうまくいっていないスポーツチームは、報道でもよく耳にしますよね。

河原:

医療事務についてじつは昔の柏レイソルもそうでした。レイソルは、1995年からJリーグの1部でずっと戦ってきたのですが、2005年に不甲斐なく2部リーグに降格してしまったのです。
当時は、強い選手がいれば勝てると考えていたので、チームが不調の時期に億単位のお金を投入して選手を獲得しました。しかし、それでも試合にはちっとも勝てない。チームの雰囲気も悪くなるし、選手からの不満も出る。
おまけに、ファンやサポーターはお金を払って観に来ているので、負け試合ばかり観させられて、「金返せ!」「責任者出て来い!」って連日のように罵声を浴びせられました。今思えばクラブがバラバラの状態でした。

三澤:

まさにうまくいっていない医療機関と同じ状況ですね。実際に連携が取れなくて組織が上手く機能していない病院の話はよく聞きます。

河原:

2005年までのレイソルは本当にそんな状態で、2部リーグに降格したのも当然の結果だったと思います。

三澤:

そんなクラブの窮地を、どうやって立て直したのですか?

河原:

まず、クラブチームの在り方から改めて考え直すことにしたんです。以前はコンセプトすらなかったのですが、組織として”クラブコンセプト”をしっかり決めました。そして、サポーターを集めてコンセプトや活動方針を発表したんです。

「強く、愛されるクラブ」とは
柏レイソルは、強くなくてはならない。家族のために、常に最善を尽くし勝利することが使命である。ホームタウンを代表し、日本を代表し、アジアを代表して世界に冠たるクラブになるために、不断の努力を続けます。
(クラブコンセプトの一部を抜粋)

三澤:

病院にも「病院理念」とか「看護部理念」があり、内容はどの病院も似ていて、飾り物になっていると感じることも多いのですが、柏レイソルの理念は地元を大切にする姿勢をすごく感じられる内容ですね。

河原:

もともと、Jリーグには「ホームタウン」という理念があって、それは活動区域と一体となったクラブづくりを行ないながら、サッカーの普及や振興に努めようというものです。柏レイソルもホームタウンの人たちに、『強く、愛されるクラブになる』ということを、明確なコンセプトとして打ち出したんです。
こうしてクラブが進むべき方向性がはっきりしたら、そのために何をやるべきなのかが見えるようになって、その中で僕が出来ることは何だろうと考えるようになったんです。それで、ファンの窓口となる「ファンサービス課」を立ち上げることになりました。

三澤:

ファンの窓口というと、まさに病院の窓口となる医療事務のような役割ですね。

河原:

クラブとサポーターとをつなぐ役目ですから、医療事務のお仕事に近いかもしれません。立ち上げた当初は、とにかくクラブへの不満ばかりいただいて正直大変でした。でも、どんなに厳しい意見でも、誠意を持ってきちんと向き合うことだけは徹底しました。
フロントとしてサポーターと議論する場を設けて、ヒザを突き合わせて徹底的に話すことにしたんです。サポーターからの言葉はしっかりと受け止めつつ、我々も応援してもらえるような強いクラブになるために努力していきたいということを、何度も何度も話し合って、ようやくサポーターに理解してもらえたんです。
それからですね、サポーターとの距離感や、フロントと選手の距離感がグッと縮まり、スタジアムに一体感が生まれたのは。

三澤:

立場も役割も違う人たちが同じ方向をむけるって、組織にとってすごく大切ですよね。

河原:

結局、サッカーのクラブチームって誰のためにあるかって考えてみると、サポーターやスポンサーや自治体、そして選手や監督やフロントなど、多くの人のためにあるんですよね。その中で、僕らフロントはクラブを運営する役割を担っているに過ぎないんです。

三澤:

サポーターを愛しているから選手も頑張れるわけで、選手やクラブを応援したいからサポーターも真剣になる。全員がクラブを愛しているからこそ、一体感が生まれ、組織として大きな力が発揮できるんですね。

河原:

ただ、どんなに一体になれても上手くいかない時もあるんです。選手は歳もとるし、どうしてもクラブとして新陳代謝を図らなければいけないと。その中で、選手や監督を替えたりするんですが、2009年の夏に再び不調に陥り、クラブとして決断し、監督を解任することにしたんです。
それで現監督のネルシーニョを迎えたのですが、彼が来てからチームとしてすべての歯車が噛み合ったような、そんな印象がありました。その時は、残念ながら2部に降格してしまいましたが。

三澤:

やっぱり指揮官の影響は大きいと?

河原:

大きいですね。監督がレイソルに来ることになって、最初に要求したのが「フロントは大丈夫か?」ということでした。
ネルシーニョ監督はブラジルでも名門クラブを歴任してきた名将ですし、Jリーグでの優勝経験もあります。選手の戦力やクラブの資金力より、チームを強くするためには、フロントがしっかり機能していることがいかに重要かをよく知っていたんですね。

三澤:

クラブが組織として正常に機能しているのかってことですね。

河原:

僕らはフロントとして、選手がどれだけいい環境でプレーできるかってことに尽力しているわけで、選手は最高のパフォーマンスを発揮することに尽力している。監督は勝つために全精力を注ぎ込んでいるわけです。どれが欠けても強いチームにならないんです。ですから、役割をきっちり分ける意識はすごく強く持っています。

三澤:

個々の役割をしっかり自覚して、徹底して専門性を追求すると、おのずと組織力がアップすると。

河原:

フロントの僕がドリブルやシュートが上手くても何の意味もないですからね(笑)。
サッカークラブは、与えられた仕事に対しての責任が非常に明確な組織なんです。そういう組織作りが組織を強くしていったと思うんです。それぞれが持ち場で強みを発揮できるという意味で。

三澤:

医療業界もスタッフの専門性がとくに高いので、その部分は本当に共通すると思います。
訪れたアメリカの医療機関では、組織の中で事務部門が確立されていて、サッカーのクラブチームでいうところのフロントの役割をしっかり担っている。でも、日本の医療機関は、いまだに院長が医療行為と経営の両方に携わっていることが多いんです。
少しずつ移行し始めてはいるけれど、やっぱり現場と経営の両方に長けている医師ってなかなかいないので、そのあたりがサッカーの世界みたいに、しっかり分けられるようになればと思うんですよね。

河原:

昔は監督が経営まで任されるクラブも多かったんです。でも、監督は現場の責任者なので、運営費を持ってきてそのお金をどう使うかを考えるのはフロントでいいんです。
今の監督が選手から信頼されているのは、いつでも選手一人ひとりに目を配っているからなんです。控え組の試合も全部見るし、休み明けは一番にグラウンドに来て、選手がどんな表情で、誰とどんなことを話しているかを全部見ている。食堂でもちゃんと食べているかなど、とにかく現場の観察は徹底しています。

三澤:

それは、とても大変なことですよね。

河原:

医療事務についてだからこそ、僕たちフロントは現場のことに口出しをしないようにしています。ましてや試合に起用する選手について、フロントが口を出してはいけないんです。きちんと権限と責任を持たせて、結果を出してもらうってことです。
現場をまかせる一方で、僕らフロントは選手獲得にお金をかけられるように、無駄を削減する努力を徹底して行ないました。たとえば、グッズを販売する直営店を閉め、通販で対応するようにもしました。
一時的なサービスの低下にはなるのですが、レイソルにとって一番の商品は「試合」であって、最高の商品を提供するために、やるべきことを追求した結果なんです。

 

三澤:

組織として一番の商品は何か? それは病院もまったく同じですね。 “がんに強い”とか、”糖尿病に強い”とか、他の病院に負けない実績や診療科目など、売りになる商品(サービス)が3つぐらいないと生き残っていけないというのが、今の医療業界では言われています。
柏レイソルの躍進を支えた裏では、結果を出すための地道な組織改革や意識改革があったというお話は、とても共感させられました。

河原:

いきなり結果を出せたわけじゃなくて、そのための努力もしたし、時間もかけて変えてきた結果が、上手くいったんですよね。

三澤:

サッカーは選手の役割がはっきりしているけれど、個人の能力がズバ抜けていても連携しないと点が取れないし勝てない。医療機関も同じで、それぞれの分野で専門的な知識や技術を持ったスタッフが、1人の患者を救うために連携して仕事をしている。
柏レイソルが、チームや組織として大きな力を発揮するために改革してきたこと、努力してきたことは、”チーム医療”を考える上で大きなヒントになると思います。

■河原正明 プロフィール
株式会社日立柏レイソル 広報・宣伝部部長

東京都出身。日本大学経済学部卒業。卒業後 百貨店勤務を経て、2001年1月より現職。
チケットやグッズ、スポンサーなど主に営業職を経験し、2008年から広報部門を担当。
昨年、クラブ初のJリーグ優勝を果たした。今年は国内だけでなく、アジアにも進出するチームを陰で支えている。

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