病院で働く人に聞く、求められる医療事務スタッフ像

interview_2011_0801prf杏雲堂病院医事課長

平良秀一さん

医療事務スタッフを募集する求人広告には、町の診療所やクリニックに比べ、規模の大きな病院で募集している場合もあります。こんな時、実務経験のない人は、大きな病院と小さなクリニックの違いがわからず、困ってしまうのではないでしょうか。
そこで今回は、大きな病院での医療事務スタッフには何が求められているのか?ということを、『佐々木研究所附属 杏雲堂病院』の医事課長をされている平良秀一さんに聞いてみました。

自己視点で自身の業務に制限をしないことが大切!

三澤:平良さんにとって、規模が大きな病院で働く医療事務スタッフに大切なことは何だとお考えですか?

平良:診療所と違って、病院というのは大きな組織です。その中で、医事課として果たすべき責務は、あらかじめ決められていると思います。でも、その決められた責務の範囲を杓子定規に解釈して、自身の業務に制限をかけないことが大切です。

三澤:どうしてでしょうか?

平良:たとえば、あらかじめ役割が決められているために、指示された業務に着手する前から、「これは私ではなく○○がやるべき業務なのでは?」とか、「○○までしか達成できない」という考えが浮かぶことも多いと思います。
でも、与えられた役割に対して、その時点で「自分の持っている実力でどこまでできるんだろう」ということを客観的に評価したうえで、さらに創意工夫や努力を加えることで、与えられた役割以上の結果が出せることもよくあります。
病院では様々な場面で、このように“もう一歩踏み出す事で見えてくる世界”というのがあります。長い目で考えれば、こうした経験で見えたものは自分の財産になり、よりいっそう充実感を得ることもできますし、何よりスキルの向上にも繋がります。それが結果的に患者様の満足につながると思います。
ですから、医療に携わるスタッフには与えられた役割に対して「結果をどこまで向上させることができるのか」、というスタンスを持ち続けて欲しいと願っています。

三澤:なるほど。たくさんのスタッフがいる病院だからこそ、一人ひとりのモチベーションが大切なんですね。

業務に疑問をもつことが大事自分で根拠を調べ理解することで身につく!

三澤:先ほど、医療事務スタッフとして大切なことを伺いましたが、病院の業務についてはどうお考えでしょうか?

平良:仕事についてですが、医療の現場は命に携わる業務をしています。ですから、マニュアルの有無に関わらず、正確に業務を遂行することは最低限の基本ですし重要なことです。でも、本当の意味で「知識を身につける」のであれば、もう一歩努力する必要があると思います。

三澤:ミスなく業務をこなすこと以外にも大切なことというと?

平良:具体的に言えば、指示された業務の根拠を、自分自身で調べることです。
もちろん“根拠”といっても、組織上の取り決めであったり、法令に基づくものであったり、まちまちだと思います。
しかし、「なぜ、このようにするのか?」という業務の根拠を調べて、自分なりに理解することで、本当に知識として蓄積できます。また、調べるうえで見慣れない言葉や、わからない用語が出てくれば、その意味を確認する必要も出てくると思います。こうしたことを繰り返すことで、ひとつのきっかけから多くの知識を身につけることができます。
与えられた業務をそのままこなしているだけでは、知識の深みが増すことはありません。でも、自分で調べて理解する、そういう一歩一歩の積み重ねが、将来的に実力の差として大きく現れてくるはずです。

三澤:仕事をこなしているだけじゃなく、吸収することが大切なんですね。

医療事務の仕事に就いてからも資格取得の努力を継続して欲しい

三澤:ところで、医療事務の仕事に就く場合、必ずしも資格が必要ではありませんが、実際に病院で働く平良さんは、資格についてどのようにお考えですか?

平良:専門学校などで、医事課業務に関する勉強をされたのであれば、通常は卒業時点でいくつかの資格を取得することになると思います。私は、医療事務スタッフを目指すなら、内容に関わらず様々な資格を積極的に取得すべきだと思います。

三澤:なぜ、そう思われるのですか?

平良:病院という組織は、医師や看護師をはじめ、国家資格を持っているスペシャリストの集団です。医療従事者やコメディカル(薬剤師や検査技師など医師・看護師以外の医療従事者)は、仕事に就いた後も、基本的にそれぞれの業務をより深め、質を向上させることに努力しています。
このような組織の中では、国家資格を持たない医事課スタッフは、「国家資格を持たない=誰でもできる」という評価を受けやすいのも事実です。
どの病院でも、医事課のスタッフは幅広い知識と対応が求められますから、病院内で対等に仕事をするためにも、これらの要求に応えられるように、より多くの知識を身につけておくことが必要だと思います。

三澤:より高度な資格なども積極的に取得するほうがよいと?

平良:入職してから数年レベルでは、仕事を覚えることが大変で難しいと思いますが、常にアンテナを張り巡らせておき、必要と感じたタイミングで、様々な資格取得にチャレンジする向上心を維持して欲しいと思います。

三澤:ありがとうございました。それでは最後に、将来医療事務スタッフとして、病院で働きたいと考えている人にメッセージをお願いします。

平良:診療報酬制度は、従来の「出来高方式」から、DPCを始めとする「点数包括方式」に移行する流れにあります(※DPC=医療行為に対してではなく、傷病によって定額の医療費を支払う方式)。
このような背景から、医療事務スタッフは旧来の「算定屋」としての役割は縮小傾向にあります。しかし、縮小しているとはいえ、その包括点数の是非を判断できるのも医療事務スタッフなので、今後も絶対的に必要です。
ただ、医事課としてのありようが大きく変わろうとしている今、充実感をもって仕事をするためには、継続的な努力と新しいことにチャレンジする気持ちが必要です。
だからと言って、オーバーワークになって気持ちばかり焦っても仕方ありませんので、たまに視点を変えながら、自分がするべきことや出来ることを考えて、一歩ずつ着実に実力を積み重ねていただきたいと思います。

◆杏雲堂病院医事課長:平良秀一さん
interview_2011_0801prf42歳・男性
勤務形態:正社員
医療事務歴:20年1ヶ月
取得資格:社会福祉主事、診療情報管理士
資格取得方法:通信教育
お仕事内容・医事課・医事課長
勤務先:佐々木研究所附属 杏雲堂病院
東京都千代田区神田駿河台1-8
03-3292-2051(代表)
http://www.kyoundo.jp/(PCサイト)

許可病床数206床。診療科は専門科目を含め18科。中規模の病院というメリットをいかして、常にきめ細かい配慮にもとづいた「患者様の立場に立って、患者様に親切に」をモットーに診療を行なっております。

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