看護師離職率0% 川越胃腸病院

interview02_06このコーナーでは、医療と介護の現場で様々な取組みをされている方々にスポーットを当て、取材を通じて知り得た情報をお届けします。記念すべき第1回目は、徹底した理念教育で、過去2年間の看護師の離職率が「0%」、企業からも見学希望が相次ぐ川越胃腸病院(埼玉県・川越市)の看護部長・池田五十鈴さんです。

川越胃腸病院の看護部長・池田さんは、医療業界だけではなく、一般企業にもセミナー講師としてよばれた方です。
医療業界で働く人が、一般の企業向けセミナーで講師をするのは、大変珍しい事例です。
「働きがいのある幸せな職場づくり」というテーマの講演(株式会社ブロックス主催)では、多くの企業経営者・管理者が、池田さんの話に熱心に聞き入り、メモをとる人が目立ちました。
でも、なぜ、医療業界とは関係のない企業経営者・管理者が、看護部長・池田さんの話を聞きたがるのでしょうか?
その秘密は、この病院で働く看護師さんの、過去2年間の離職率にありました。
実は、同病院は過去2年間の看護師の離職率が「0%」なのです。
さらに、川越胃腸病院の評判が「この病院で働きたい!」という看護師の間で口コミで広まり、人材確保に頭を痛める日々とは無縁の状況を生み出しています。慢性的な看護師不足で悩む病院からは、「信じられない!」状況だと思います。
同様に、有能なスタッフを求め、スタッフの会社離れに悩む企業経営者にしてみれば、「どうすればそんなことが可能なの? 本当ですか?」と、特別なノウハウや採用制度、組織作りにについて質問したくなるというわけです。
その点について、看護部長・池田さんは先日のインタビューで次のように話されていました。

初めに、池田さんがおっしゃたのは、次の言葉でした。

川越胃腸病院 看護部長
池田五十鈴さん

interview02_04高い患者満足を提供する職員の満足も、同様に非常に大切なことと考えている。
患者満足は「ES(Employee Satisfaction)なくしてCS(Customer Satisfaction)なし、つまり、職員の満足なくして患者さんの満足するような医療サービスは提供できないということなのです。


と、さらに興味深い内容が続きます。

池田:

私たちの病院理念は、患者満足を一番目にあげています。しかし、その一方で、高い患者満足を提供する職員の満足も同様に非常に大切なことと考えています。そして、面接を何回も繰り返して良き人を採用し、病院理念に共感できた人だけが、共に働く仲間となっています。この原則はどんなに大変な時期にも崩しませんでした。

私はこのお話を伺った時、大変驚きました。もちろん、多くの病院が「患者様の為に…」という事を病院理念として掲げています。しかし、患者満足と同様に、職員の満足も第一に考え理念として実践し、実際の職員採用にまで反映させている病院は、これまであまり聞いたことがないからです。パッと聞いた感じでは似ていますが、実際はまったく違うというのが私の感想です。

現実的には、人(各職員や患者様)の悩みは尽きないもので、それが悪循環となっている場合が多いのが現状です。「実際、20年前の川越胃腸病院はひどい状態でした…」と、池田看護部長は当時を振り返り話してくれました。
しかし、院長と看護部長の徹底した理念教育から、10年間人材育成のための種まきを経て、やっと一息つける状況まできたとの事。「さらに、続く10年でその種が実りロイヤリティーを持った人の輪が広がってきて、強化され、今がある」とのお話はとても迫力あるものでした。

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「葉っぱのフレディ」ジュニア出演者と一緒に全員笑顔で記念撮影。
高いモチベーションは、教育マニュアルによるものではない。
同じ理念に共感し、共有する者同士が互いに力を合わせている。

理念の徹底による、患者満足と職員満足の追求が、「看護師離職率(過去2年)と医療訴訟(過去20年)の“0%”という数字につながっている現実に、創刊号の特集記事へ取り上げた一番の理由があります。そういった意味では、池田さんのおっしゃった次のような言葉は、とても説得力がありました。

池田:

当院では、少なくとも採用までに面接を3回は行ないます。私たちの病院理念に共感できることが最優先で、同じ方向性で働けるスタッフとして一緒にやっていける人しか入職できません。

川越胃腸病院さんの院内は、常に活気があり、スタッフの高いモチベーションや空気感に満ちています。さらに、そうした高いモチベーションは、教育マニュアルによるものではありません。ベクトルを同じく、理念に共感し、共有する者同士が互いに力を合わせ、職員は質の高い医療サービスを提供するサービス・スタッフという位置づけを自ら築き上げているという点から、病院や企業からの見学希望者が後を絶ちません。驚くことに川越胃腸病院さんの場合、接遇研修を18年前に1度実施しただけです。その後は接遇研修を行なわず、理念教育に全力を注ぎ、理念への理解と具現化が今の状態を作っています。

インタビューの最後に、「面接を3回もするということは、その間はパスできない人も当然出てきますよね」とお聞きすると、「入職できなかった人は、次回1年後も真剣にトライしに来ています」…と。
現在、多くの病院が看護師不足で頭を痛めているなかで、川越胃腸病院さんの例は、まず初めに皆様にお伝えしたい事例でした。もちろん、このレベルへ到達するまでに、20年間の大変な苦労、失敗や成功の繰り返しがあったとの事。
しかし、そういった苦労と立ち向かい、長い目で見ながら現在のように“異業種からも注目される病院”になった事を皆様にお届けしたく、リポートいたしました!

「この病院のファンで入職いたい!」「この病院の看護師として働きたい!」そんな人たちが活気に満ち、笑顔で働いている姿に、多くの患者様の満足した顔を想像できる、心暖まるインタビューでした。

医療法人財団献身会
川越胃腸病院

http://www.kib.or.jp/
埼玉県川越市仙波町2-9-2
049-225-6888(代)
●病院の特色:人重視、顧客本意、人満足の好循環スパイラル
●病床数:40床
●入院基本料:7対1
●一日平均患者数:外来…282.3人 入院…33.1人(各2007年度平均)
●平均年令:35.8歳(2007年度)
●平均在職年数:8.9年(2007年度)
●離職率:0%(2005年及び2006年度)

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