日清医療食品の挑戦

vol4_002今回の特集では、「食」を通じて患者様の満足を追求し、さらに「この病院が良くなるには?」と、常に挑戦し続けている二人の女性管理栄養士、内山亜希子様(日清医療食品株式会社)と横田千絵様(医療法人財団献心会・川越胃腸病院)をお招きし、「病院と給食会社の連携による取り組みや今後の展望」について取材を行いました。

三澤:

本日は“患者様の満足”という観点から、「病院と給食会社の連携による取り組みや今後の展望」についてお話を伺いたいと思います。

内山:

まず、私たち管理栄養士が病棟を訪問させていただいて、患者様の生の声を反映させた献立を作成しています。正直、以前までの私は、「自分が管理栄養士として、具体的にどう貢献すべきなのか…」と迷うことがありました。でも、今は「管理栄養士って、こういう仕事なんだ」と自覚し、栄養科の横田さんとも積極的にコミュニケーションをとれるようになりました。

三澤:

普段、どんな話をされているのですか?

内山:

「川越胃腸病院の栄養科が、どうしたらもっと良くなるか」ということを常に考えたうえで、「それならこうした方がいいよね!」と、意見を出し合っています。

三澤:

病院様との垣根がまったく感じられませんね。

内山:

「日清さんはうちの大切な職員だから」と、院長先生をはじめ、常務理事が本当によくしてくれます。「いつもありがとう! お食事が美味しいよ!」と声をかけてくれる度、その心遣いに少しでも応えようと考えています。そういう気風があることが、とても重要だと思っています。

三澤:

この病院のプラスのスパイラル的な仕組みがきっちり機能して、みんなうまくいっている感じですね。

横田:

院長先生もよく、「スタッフは宝だ」とおっしゃっていますが、病院としては、「日清のスタッフも病院のスタッフも全て川越胃腸病院のスタッフである」という意味が込められています。

三澤:

内山さん、毎日こういう環境の中で仕事ができて、幸せですね。

内山:

幸せです。私と同じ管理栄養士の方でも、忙しくて他の職員の方と真剣に意見交換する機会のない方もいると聞きますから。

三澤:

しかし、日清食品さんとしては、そういった問題を改善する新しい取り組みをされているのですよね。

内山:

昨年度から、業務の向上を目指して日清の社長・副社長が出席し、外部委員も加えた「給食サービス検討委員会」というものを設置しました。その委員に当院の須藤常務理事をお迎えして、細かなところまでアドバイスをいただいています。

三澤:

現場での具体的な例では?

内山:

新しい試みとして、調理師の病棟訪問を実施しています。これにより、患者様の気持ちを理解して調理する様になりました。

三澤:

現場を知ることで、気づくことってありますよね。調理場から一歩出ていくことで、管理栄養士・調理師の世界観が変わるというか。

横田:

私はもともと日清医療食品の社員だったのですが、前の委託先からここに来た時、「配膳まで栄養科が行う」と聞いて驚きました。栄養士や調理師、パートの方全員がベッドサイドまで行くことで、「美味しかったよ」と言ってもらえたり、いろいろ要望を言われたりする。
でも、毎日直接、患者様と顔を合わせることで、「本当に、この人にこうしてさしあげたい…」という想いを、「一人一人が徐々に自覚していくものなんだ、これって大切なことなんだ…」と、わかるようになりました。
ただ、こうした取り組みは、思ったら即行動とはいかない難しい部分があるのも事実でした。それには、適切な時期があったのです。患者様に直接お会いするにあたって、知識や接遇面などを、事前にきちんと教育していくことがとても大切だと思います。

三澤:

知識や接客上のスキルも必要だという意味ですよね。

内山:

そうです。私はこれまでに、大きな病気や手術をした経験がまったくありません。先日も、患者様に質問をして意外な答えが返って来た時、「あ~、患者さんってこういう風に考えていたんだ…」と強く感じたことがありましたから。

三澤:

そういった現場での気づきを、担当する営業や管理部門とはどのように共有し、連携されていますか?

内山亜希子:

vol4_003日清の本社・支店スタッフがこの病院に多く託されています。その中で、管理部担当者が心がけていることは、配属される者が事前に病院方針を理解し高いサービスに順応できるよう、須藤常務理事からのお話を頂戴することにしています。
また、イベントの際には支店スタッフも参加し密接な関係を築こうと努めています。営業担当者においては、「取引先の病院に、ここの食事を食べさせてあげたい…」とか。
そして、横の繋がりという意味では、この川越地区のスタッフが中心となって、栄養士・調理師の地区グループ会議という場で、積極的に意見交換を行っています。最近では、病院側に新しい提案を行う管理栄養士も徐々に増えて来ていると聞きます。

三澤:

それは素晴らしいですね。内山さんや横田さんの気づきが、影響の輪になって広がりを持つ。すると、この病院では当たり前とされているサービスが、今後は他院でもスタンダードになり、医療業界も大きく変わりますものね。ではお二人が、今後、目指していきたいことなどをお聞かせ下さい。

内山:

私は、患者様の要望に見合ったより細かな対応、サービスを提供したいと思っています。たとえば、抗がん剤などを使用している場合、患者様の味覚、嗜好は変わります。口内炎といった症状も出て来ます。
それにより、食事の幅がかなり狭くなる。それに応えるためには、今までのようなパッケージである、常食、全粥、○○食みたいな対応ではダメで、個人の症状に合わせて、より細かなニーズを汲み取ったサービスを提供したいです。

三澤:

定番の決まったものではなく、より細かい、徹底したサービスという意味ですよね。

内山:

そうです。同じご飯でも、「冷たいご飯だったら食べられるけど、温かいと臭いが気になって食べられない…」という患者様もいます。
ちょっとした差なのですが、これを一日三度の食事でやっていくのって、意外と大変です。でも、将来的には、小さなことも含めて、配慮できるようになりたいです。

横田千絵:

vol4_004そのためには、一方で業務の無駄を省くことが重要だと考えています。限られたマンパワーでやっていくわけですから。実は気づいてないけれども、そんなに大切じゃないことにとても時間をかけていたりだとか、能力を使っていることがあったりします。そんな時に重要なのが選択ですね。業務集中をさせるために、切り捨てる部分はバッサリ切り捨てるという判断力も必要になって来ます。
的確な判断ができれば、無駄も減る。すると、より細かな食事サービスも実現できると考えています。

三澤:

選択と集中をはっきりさせることは、とても重要ですね。

横田:

そうです。それは、望月院長が、(当院を)なぜ40床にしているのか、40床にこだわっているのかということと関連してきます。やはり、「患者さん一人一人に目がいき届くように…」という配慮からだと思うのです。私たちは、「そうした想いに応えられる栄養科でありたいな…」と、いつも思っています。
やはり、医療=サービスという観点で考えますと、私たち栄養科が一番大事にしなくてはならないのは(食事を通じて)喜んでいただく、楽しんで食べていただく、という一点だと思うのです。

たとえば、過去に事情があって、かき氷しか召し上がれない患者様がいらっしゃいました。この場合、通常なら厨房でかき氷を作って、そのまま部屋にお持ちします。でも、私たちはあえて、患者様の目の前で氷を削りました。シロップは数種類持っていって、その場で選んでもらいました。
シャカシャカ!ガリガリッ!という氷を削る音、雪のように白い氷が、シロップの色でジワ~と染まっていく…。何と言うか、そうした雰囲気も全部含めて、できるかぎり食事を楽しんで、味わっていただきたかったのです。

私たちは、そうしたサービス精神という、企業風土みたいなものを、今後も積極的に取り入れ実践していきたいなと考えています。これは、「こんな時はこうしなさい」と、誰かが教えてくれるものではありません。
ですが、スタッフ全員がES(職員満足)=CS(顧客満足)という理念を胸に、勇気を出して意見を言い、思いやりを持ってお互いの意見を尊重・実践していけば、今まで以上のサービスを提供できると思っています。

三澤:

病院と給食会社の連携によって、こういう素敵なお話が聞けるんですね!
よろしければ、最後に一つ、日清医療食品様に協力し合えるコツのようなものがあれば、教えていただけませんか?

内山:

コツというより、組織のあり方だと思います。そこで働くスタッフ同士の協力があって、はじめて出せるお菓子だとか、食事ってあると思うのです。ちょうど今日がそうでしたが、「焼き立てパンの日」は、パン教室の先生が、毎月2回パンを焼いて提供しているのですが、配膳は看護部の方に協力していただいています。
ですから、コツというよりも、そこに協力し合える組織や風土がないとできないように思います。

三澤:

それはまさしく、望月院長をはじめ、須藤常務理事がおっしゃっている、「どんな環境でどんな人たちと働くか?」ということに通じるところがありますね。

横田:

私たちの病院のロゴマークには、漢字の「人」という字がデザイン処理されています。そこには患者様だけでなく、そこに集う全てのスタッフが支え合い幸せになるという想いが込められているのです。

三澤:

vol4_006インタビュー当日、嬉しいことがありました。「暑い中、お越しいただいてありがとうございます」と、内山さんと横田さんから、手作りのアイスをごちそうになりました。そうしたさりげない気配りに、多くの患者様の喜んでいる姿が容易に想像できました。

 

■内山亜希子 プロフィール
日清医療食品株式会社勤務 管理栄養士

武蔵野栄養専門学校卒業。卒業後、日清医療食品(株)に勤務し管理栄養士取得。
その後、川越胃腸病院に配属となる。給食会社と病院側の垣根ない環境のもと、患者様や医師・看護師・薬剤師とのやりとりを直接食事に反映させ、満足度の高い「医療食」の追求を行っている。

■横田千絵 プロフィール
川越胃腸病院栄養科 主任代理 管理栄養士

淑徳短期大学卒業。卒業後、日清医療食品(株)に勤務し、管理栄養士取得。
その後、委託会社の職員として勤務していた川越胃腸病院の理念に共感し、平成10年より同病院の栄養科に移籍。これまでに、「焼き立てパンの日」や「鮮魚の日」など、他の医療機関では見られない様々な食の提案や人材管理を行っている。

更新情報

インフォメーション